GT CHAMPIONSHIP 2002 Series Round 6
- 開催日
- 2002年9月14〜15日
- サーキット
- 栃木県:ツインリンクモテギ
- マシン名
- BOSSベルノ東海AR・NSX
- ドライバー
- 高橋 一穂・渡辺 明
12日(木)搬入
GT戦のレースウィークは、1日目:搬入、2日目:フリー走行、3日目:予選、4日目:決勝・撤収と、いつも大体同じです。我々「ベルノ東海・ドリーム28」は、まずマシンを含めた各パーツ、工具、タイヤ、その他の備品を積んだ10トンのトランスポーターが先行し、メカが追っかけ、サーキットで合流。我々スタッフ(監督、サインマン、ネージャーや私を含めた雑用組)は、翌朝サーキットに入る事が多く、従って搬入日だけでは設営が完了しない事が多い。(メカはマシンの準備で手一杯。)
回は何とか時間の都合をつけて、我々裏方スタッフも、1日目からサーキットへ入る事にした。
夕方4:00頃より設営をしていると、空が真っ暗になり、稲妻が走り、雷鳴が轟き始めた。そんな時間が数十分も続いたかと思ったら、“もの凄い豪雨”(表現が二重になっているが、まさしくその通り)である。しかも結構長く続くので、設営もそこそこに宿に引き上げることにした。今日からレース終了まで、曇り空と、雨雲の繰り返し(最後は“落雷”)のレースウィークがスタートした。
13日(金) フリー走行 曇 路面:ドライ
GTシリーズの参戦は昨年のモテギからで、丁度1シーズン巡った事になる。昨年からどれだけ成長したかを確かめるターニングポイントである。
しかし今回はマシンメンテや、ドライバーの日程の関係で、合同テストに参加できず、走り込みが不足している事は否めない。
渡辺選手にとっては、NSXでのモテギは初めてである。今日のフリー走行でどこまでセッティングが煮詰まるか・・。
ところが雨こそ降っていないが、昨夕から未明までの雷雨で、走行開始時には各所にウェットパッチが残る状態。
ドライタイヤで走行するに従って、路面もライン上は乾き、序々にペースは上がり始め、午前中に渡辺選手も57秒台、高橋選手も59秒台に入り、昨年の2分2秒台から格段に向上した。しかしトップ「VEMAC」は既に56秒台に入っており、更にセッティングを煮詰めタイムアップをしなくてはならない。
「名古屋は残暑が厳しいぞ!」と言うのが信じられない位、肌寒い。正午過ぎでも20度を少し超える位で、皆、長袖を着込んでいる。真夏の十勝24時間のようだ。
午後から2回目の走行までにリヤウイング角度、ダンパー等を中心にセッティングを変え、曇り空、温度の上がらないコースへ。
ほどなく渡辺選手も57秒332と、6番手に入るが、この57秒台には11台がひしめく大激戦区。やはり56秒台に入らないと上位グリッドは望めない。しかも明日の予選は雨も予想され、セッティングは混迷に入って行く。
ところで今回は1回目と2回目の間に、ドライバーの緊急脱出の検査があり、運転席5秒、助手席9秒以内に脱出できるかの確認である。ドライバーはゲーム感覚で練習をしており、スタッフや隣のチームスタッフなども見物にやってきた。両ドライバー共勿論難なくパスしたが、高橋選手は運転席からは“3秒”とオフィシャルも驚きの最速タイムであった。
マネージャーからは「逃げ足だけは早いんだから〜。」と言われ、皮肉にもこれが今回役に立つとは・・。
GT500に2戦からエントリーしている、「HKS CLK」今回初めて決勝を走行。しかし全く本調子ではない
裏ストレートは結構下っている。この先の90度コーナーは多くマシンがコースアウトを経験している
路面の変化に対し、走り込みが不足。仲々セッティングが決まらない
今日も朝から雨である。
14日(土) 予選 雨のち曇 路面:ウェットのちドライ
予選開始時には何とか上がったものの路面はウェットパッチが残る状態。各マシンに装着されているのも、レイン、ドライタイヤが混在している。
我々は500の専有走行で乾くだろうと、ドライをセットして待機する。そして300クラスの占有時間。
今回のお隣は「イクリプスタイサンADバイパー」綺麗に仕上げられたマシンだ
2戦からGT300へエントリーの「ZIPSPEED CORVETTE」予選突破ならず。仕上がりの良いマシンだが…
GT300の「車検ポール争いの相手はいつも「DAISHIN」。今回は負けた
決勝スタートタイヤ抽選。3セットの中から、くじ引きで4本を選び出す。予選スペシャルタイヤの使用を防止する為
今回は天候の不順により、セッティングも不充分な為、渡辺選手のタイムアタックに合わせ、セッティングを絞り込む。
しかしその渡辺選手もウェットパッチの残る路面を攻めあぐねている。
2分台で数周、その後セッティングを変え1分59秒880、16番手。
トップグループは既に56〜57秒台に入っている。再アタックは路面状況の回復を期待して午後にする事にして、高橋選手に交代。ところがここでおびただしいオイル漏れを発見。高橋選手が走る事無く1回目終了。
このNSXの慢性的なミッションオイル漏れは、毎回手を打ってきたが、前回ポッカ1000km前のメンテナンスでの対策が功を奏し完治したと、メカも喜んでいたのだが、「再発か!」とピットクルーもがっかり。
しかし単純なオイルラインの緩みとわかり、別の意味でホッとしたのだった。
オイル漏れも直り、午後2回目の予選はまず高橋選手が、NEWタイヤを温存しつつ予選基準タイムを2分00秒286でクリアし、渡辺選手による再アタック。2周でクリアラップを作り、1分57秒239!56秒台を目指す渡辺選手は、納得できず更に2周目アタックするも57秒392。
結局最初のベストを上回る事ができず、14番グリッドにとどまる。
その後もリヤサス、ウイング、カナードのセッティングを変更し、明日朝一のフリー走行で、最後の煮詰めを行う事にする。
1回目予選。高橋選手に交代、乗り込んだところでオイル漏れ発見。ピット内へ戻される
完治したと思われたオイル漏れが再発。しかし今回は別件で単純だった
午後2回目の予選に向けて、ピットウォークの最中もメンテナンスは続く
4戦セパンでデビューのNEWコスチュームには長袖も有ったんです
今回は全く晴れ間が見られない。
15日(日)決勝 雨のち曇 路面:ウェットのちドライ
朝一のフリー走行も序々に雨足がひどくなる状態。
それでも決勝でもウェットが予想される為、勢力的に走りこむ。しかし金曜のフリー走行から、刻々と変化する路面状況に、ベテラン渡辺選手もセッティングに混迷を極めたようだ。
セッティングも決め手を欠き、予選終了後も、通常のメンテにとどまる
決勝前のフリー走行では、フロントカナードを追加。これは当たり
フリー走行は終始ウェット。決勝も雨予想の為、積極的に走り込む。PHOTO by Y.SUZUKI
走行会にも来てくれた、小林選手。今回はサポートレースの「アルテッツァ」で活躍。しかし2位走行中、クラッチトラブルで後退
今回からご協賛いただいた「新日本宣伝」
それでも何か突破口を開こうと、フロントにカナードを追加し、リヤウイングを再調整し決勝に挑む。
厚く低い雲。グリッドにもレインタイヤを用意。メカから「スタートの時は後ろから押してね。」と談笑するのは真後ろグリッド「エクリプスタイサンADバイパー」の清水 剛選手
GTデビューの昨年は後ろにマーシャルカーしかいなかったが、1年たった今年は・・成長してる
朝からの雨も、PM2:00の決勝までに何度かパラつくが、午前中には上がり、サポートレースで路面もドライに・・。
今回は63周のレース。GT300クラスは58〜59周がゴール周回と予想されるレースは、渡辺選手をスタートドライバーに始まった。
序盤、12位を59秒台で安定した周回を重ねるものの、レースはなかなか動かない。10位辺りまで上がった24周頃から各車ルーティンピットインが始まる。我々は24周から、39周の間にピットインを予定。
しかしSC(セーフティーカー)も入らないことから、燃料ぎりぎりの39周まで引っ張り、見かけの順位をクラス2位に上げたところでピットイン。
ピット勝負だ!
殆どのマシンがピット作業を完了した為、前後のピット前はクリアだ。
スムーズなラインで渡辺選手がピットに滑り込んでくる。
前輪交換。と同時にジャッキアップ。
スタート直後はグリッド順位のまま。PHOTO by Y.SUZUKI
オーバルコースの下をくぐる。独特の映り込みが見える。PHOTO by Y.SUZUKI
ルーティンピットインが始まるまでは混戦状態。PHOTO by Y.SUZUKI
上の写真の1周後が下の写真。各所で順位がもめまぐるしく入れ替わる。PHOTO by Y.SUZUKI
給油開始。
残り周回から半タンで充分だ。曇り空で、肌寒さを感じる今日は、クールスーツも使用しない為、ドライバー交代も早い。
停車から30秒が経過。給油ホースを抜き取る。
エアジャッキ降下。
その時、ボディを伝って路面にこぼれた燃料が炎を上げる!消火器一閃!
すぐに消し止めスタートを指示。
激しいホイールスピンで、テールを振りながら高橋選手はピットを後にする。その後姿にわずかな炎が見えたが直ぐに消えた様な・・。
「BOSSベルノ東海AR・NSX」が映し出されたモニターに全スタッフが注目する。給油口、真下のフロア部分にやはりわずかな炎が見える。走行風で消えてくれる事を望むスタッフの願いと裏腹に、炎は僅かづつ大きくなっていく。
無線で緊急ピットインを指示。この時既にコックピット内にも煙が入ってきていた様だ。
「後30秒で来ます!」とサインマン。
消火器を何本も用意し、ピットロードに入ってくるはずのマシンを待ち構える。ところが来ない?もう一度モニターへ。
そこにはタイヤバリアに乗り上げ停車し、白煙を上げる「BOSSベルノ東海AR・NSX」があった。
レスキューが消火活動に入っているが、ドライバーは?
カメラが引くと、そこには既に脱出し、歩いてくる高橋選手の元気な姿が映し出された。スタッフ一同胸をなでおろす。
衝突はピットロードに入る為、速度を落としたところ、多量の煙が急激に視界をさえぎり、ピット進入のクランクを回れなかった様だ。
こうして昨年より参戦を開始し、9戦目の今回、派手な幕切れで、初リタイヤを喫してしまった。同時に今シーズン連続ポイント獲得も、5戦で終える事になった。
火が消え、給油機を見る給油マン。ピットロードを行くマシンを見送るピットクルー
モニターに映し出された、マシン。後輪前辺りに炎が見える。既に室内にも煙が入っていた
タワーからゼッケン「2」が消えた。今シーズンどころか、昨年ポッカ1000kmから9戦目にして初のリタイヤ
火が出た付近。結果的にこの被害は小さいが、フロントバンパーと、両フェンダーの破損、消化剤によるダメージの方が大きいかも
今回の火災という形でのリタイヤ。
何が原因か?とすれば色々あると思います。
しかしレース中、少しでも上位に行きたい。完走したい。と言う気持ちは皆にあり、自分の受け持つ部署で、最善、最速を尽くし、レースの足は引っ張りたくないという気持ちは当然です。それはドライバーを含めた全スタッフが同じで、それ無くしてレースで高位は望めません。
アクシデントへの対応も、少々のトラブルも、各自のレベルで判断し、極力目をつむりマシンを送り出す場合もあります。ドライバーもコース上でマシンを破損し、降りて確認してから走るドライバーなど殆ど見る事は有りません。その場で諦めるドライバーもいれば、動ける限り帰ってくるドライバー。無論、その走行が、マシンへの更なるダメージの追加、他車への影響を判断しての事ではあるが、この「各自のレベルで判断」も「総合的な監督判断」も、チームの総合力であります。
レースは常に色々な反省点があり、また反省無くしては継続する意味がありません。今回、火災というチーム内でも滅多と無い体験をしましたが、充分修復可能なレベルであり、次戦に向け早急なメンテナンスと、更なる安全対策を施して行きたいと思います。
GT選手権第6戦 GT300クラス
予選 14位
決勝 リタイヤ
「初リタイヤは派手な幕切れ。両ドライバー無事で何よりでした。」
ドライバーコメント
渡辺選手「決勝スタートして5ラップぐらいまでペースがつかめなかった。理由としてはフロントタイヤの温まりが遅くラップタイムが上がらなかったが、10ラップ目からやっとタイヤグリップが出てきて徐々に前からドロップしてきたマシンを一台ずつ抜かすことが出来た。
最終的にはクラス7位まで上がった。金曜日の走行、予選とタイヤとサスペンションがうまくあってなくて、不安があったのですが思った以上にマシンの調子が良く、セッティングが間違ってなかったという実感と、もう少し予選で上位に並んでいけば、ドライバー交代時にはもう少し良いポジションでいけたかなと思っています。
ドライバー交代時、トラブル?があってストップしてしまったんですが、次回給油不備がないように、またピット作業で不備がないようにできれば、もっと良い結果が望めたと思います。このGT選手権は、ドライバーだけの力ではなく、一応セミ耐久なのでメカニックとドライバーと共同体でいかないと良い結果は出ませんので、次回美祢では期待していてください。頑張ります。」
高橋選手「(ゴホッ!ゴホッ!)煙が喉に。(体調が悪いのかと心配したが、本人よりさっき吸ったタバコの煙でむせたと、、)燻製になるか、丸焼けになるかの所でしたが、元気で今ここに居る事ができてほっとしています。本音を言うと、3位は狙いたかった。逃げ足だけは速かった。(笑)」
監督から壊したタイヤバリアの弁済は免除されたと報告があり、喜んでいたドライバー高橋一穂選手であった。もし、弁償となると○○万ぐらいかかったかな〜。タイヤバリアに囲まれた機材を投げ倒したらしい。
おまけ
GTでサインボードを出すのに女性がやっているのは、恐らく我々のチームだけだと思いますが、その佳代嬢が、このたびナッ!ナッ!ナント、結婚をいたしました。
サーキット、走行会等で見かけたら、祝福のひとつも掛けてやってください。