モータースポーツ

2012:JAF GP FUJI SPRINT CUP 富士スピードウェイ

2012シーズン 紫電
2012年12月31日

12JAFGP-502.jpg 紫電ラストラン・・・。

2010年から復活した、JAF主催の「JAFグランプリ」は、1969年から始まり、かつては全日本選手権の1戦が組み込まれ、途中(71~73年)中断はあったものの、1990年まで続いた伝統の1戦である。
シリーズ戦と異なりイベント色も強く、往年の名ドライバーが繰り広げるレジェンドカップレース等もあり、見ていても楽しいイベントレースである。
特にSUPER GTは、通常のレースと異なり、レース周回が22周と100kmに満たないスプリントレース。
土曜、日曜に、それぞれ第1、第2レースとして行われ、第1、第2ドライバーが、ドライバー交代なしで、それぞれ単独でレースを行なうので、タイヤ交換も、給油もなし、ピットイン無しの純粋スプリントレースとなる。
スタートもゆっくり走りながらのローリングスタートではなく、停車状態からスタートする、いわゆるスタンディングスタートとなり、いつもは見られないドライバーのテクニックも見られ、いつものGT戦とは違った面白さを味わえるレースとなる。

12JAFGP-096.jpg 正に言葉通り“雲ひとつない”好天に恵まれた金曜日 12JAFGP-806.jpg 晴れ予報が出てる日曜の第2レースは加藤選手。 12JAFGP-811.jpg 反対に高確率の雨予報の土曜日、第1レースは高橋選手。

11月16日(金) 練習走行 / 晴れ

練習走行は、第1第2ドライバー一緒に僅か1時間だが、既にデーターの多いコースだけに大きな問題は無く、我々も含め、各チーム、タイムを上げて行き、9月にマークされた300クラスのコースレコード1′40″417もあっさり突破している、(この練習走行では非公式なのでコースレコードとはならない。)
9月のシリーズ戦では、上位陣はズッシリとウェイトを積んでいるが時期だが、そのハンディウェイトもこのレースでは無い。
とは言え、トップ911号車ポルシェ(2012年シリーズチャンピオン)の38″970から12番手の加藤選手の40″187までレコード更新!!
高橋選手も40″954と加藤選手から僅かコンマ7秒差。
それもセッション終了間際のタイムなので、まだまだ詰められそうな勢いだ。
午後の予選が楽しみだ。

11月16日(金) 第1・第2レース予選 / 晴れ

明日土曜日の決勝第1レースは、かなりの確率で雨。
できる事なら土曜日曜、それぞれのレース、両ドライバーにはドライコンディションで、GT史上屈指のコーナリングマシンEVA紫電のラストランを戦って欲しかったのだが、こればかりはどうしようもない。
昨年同様、土曜日の第1レースは第1ドライバーの高橋選手が出走。
これはどちらが走っても良いのだが、既にエントリーの時点で固定され変更はできない。
午前の練習走行のタイムから、予選も決勝も大いに期待でき、特に今シーズン後半戦はフラストレーションの溜まるレースが多く、結果ランキング争いからも脱落したEVA紫電の、最後のレースにふさわしい戦い振りを見せて欲しいのだが・・・コーナリングスピードを活かせないウェットコンディションとなってしまいそうだ。

そういう意味では、高橋選手にとって、この第1レース予選はEVA紫電の卓越したコーナリングを楽しめる最後の機会、ラストランとなることだろう。
NEWタイヤを温め41秒台を数ラップし、40″927!!ベストタイム更新。
更に40″406のコースレコードも更新。
その後も40秒台を連発。
このレースではタイヤマーキングもなくタイヤは自由。
明日のレースの為にタイヤの温存は必要ないので、存分にEVA紫電との“対話”を楽しんで欲しい。
結局24台中、33号車ポルシェの37″936をトップに16位の高橋選手までがレコードタイムを更新し、正にスプリントレースにふさわしいハイスピードのレースが展開されそうだが・・・。

500クラスの予選を挟み、300クラス第2レース予選。
加藤選手によるアタックはEVA紫電にとって富士のベストラップとなるだろう。
高橋選手が使用し、まだ余熱の残るタイヤで、バランスを確認。
20分間の予選の中で、NEWタイヤに交換。
EVA紫電のレコードタイムを刻むべく再度アタックに入る。
計測3周目のタイムは38″801!!午前のクラストップタイムを上回り、勿論コースレコード。
だが厚いFIAGTマシン勢に阻まれ7番手。
EVA紫電の全てを引き出すべく1周のクールダウンを入れ、再アタック。
各セクターでベストを更新した加藤選手の渾身アタックは38″542!!
全力を出し切ったものの7位、4列目グリッド。
引退マシンとしては上出来のグリッドを確保した。

12JAFGP-822.jpg シリーズは終了したが、このJAFGPが本当のラストラン、ラストレース。 12JAFGP-832.jpg 高橋選手にとって、実質紫電の最後のドライ走行となった予選・・16番手。 12JAFGP-214.jpg 加藤選手は予選7番と上出来の位置。

11月17日(土) 第1レース決勝 / 雨

予報通りの雨は朝から降り出し、第1レーススタートの午後12時45分にはレース中止には至らないギリギリかと思われる雨。
セーフティーカー先導のスタートも予想されたが、予定通りスタート。
激しい水煙で、前が全く見えない第1コーナーに入る高橋選手だが、このスリッピーなコンディションではFIAGT勢が装備するABSやトラクションコントロールなど高度な電子デバイスが大きなアドバンテージとなり、オープニングラップから大きく水を空けられ21位に後退。
2周目に入り19位、タイヤの温度上昇に伴いグリップの上がる事を待ち”忍”の周回を重ねるが、一向にグリップが上がらない。
同じキャラクターのタイヤを選択したと思われるマシン群は軒並みタイムが悪い。
2分を軽々と切って、55~56秒台でラップするマシンと、2分どころか02~04秒台が精一杯のマシンとに大きく分かれて行く。
レースも半ば10周を終え、17位。
今に至っても、スタート時と殆どグリップは変わらず、ペースを上げられないどころかコースにマシンを留める事すら難しい。
反対に上位グループは、周回を重ねるごとにタイムが上がっていて、差はどんどんと広がるばかり。
冷たい雨はレース最後まで降り続け、トップが22周チェッカーを受け、高橋選手は2周遅れの18位。
トップと同一周回のマシンは半分以下の10台だけで、クラッシュも無い中、スプリントレースとしては異例にバラつきの多いレースとなった。
チェッカー後のEVA紫電のタイヤは全く温まっておらず、タイヤチョイスが大きな敗因であった事は間違いない。

12JAFGP-295.jpg 予報通り雨となった第1レース。 12JAFGP-847.jpg 冷たい雨の中スタートしたが・・・ 12JAFGP-854.jpg タイヤが全く合わず・・・レースにならない。

■第1レース決勝後のコメント
■渡邊エンジニア「予選では今までの紫電にない素晴らしいタイムを出し、高橋選手もコースレコードをマークするくらい、いいパフォーマンスを示したんですが、あいにくの雨となると、タイヤ勝負ってところが出ちゃうんで・・・ソフトとハード、ミディアムの3種があって、ソフトを選んだんですが、それがうまく働かなかったようで、同じタイヤを試したチームもいくつかあったんですが、全部ダメだったようで・・・それが最後、高橋選手の(紫電)ラストランでうまくいかなかったっていう所が残念だなとは思います。明日・・もう一日、それが本当の(紫電)ファイナルレースになるんで、それに向けて・・・ま~今まだ雨降ってますけど・・・、どうなるのかって気になるところですが・・・(後で高橋選手:「(カトチャン)意外とお金(賞金)掛かると弱いタイプだってわかった。(昨年5番グリッドでスタートエンスト)」笑)・・・らしいです。(笑)なんであと一日がんばります。 」
■高橋選手「タイヤが全然ダメだった。(紫電との)最後のレースだったんで、走りながら「紫電ちゃん、一緒にがんばろうね」て言ったんだけど・・・ダメでした。本当に・・・言い訳じゃなくてだめだった・・タイヤが・・カチカチで・・。ほんと普通のラジアルタイヤに変えてほしいと思ったくらい・・・。」

12JAFGP-318.jpg 最後までグリップせずレース終了。 12JAFGP-321.jpg 高橋選手の紫電ラストレースは残念な18位。

11月18日(日) 第2レース決勝 / 晴れ

昨日と打って変わって、素晴らしい好天に恵まれた日曜日。
雨に阻まれ、高橋選手の紫電ラストレースは残念に終わったので、今日の加藤選手には本来のEVA紫電の雄姿を見せつけ花道を飾ってもらいたい。
しかし、ラストランとは言え、ライバルが手心を加えてくれるわけではなく、またEVA紫電は、好燃費と、卓越したタイヤライフを活かしたロングランのレースが得意であり、それらピット作業を伴わないスプリントレースでは何もアドバンテージとなる要素が無い。
昨年に比べればリストリクターで4段階・・・かなりパワーアップしているとは言え、300クラス全体に言える事で、相対的には有利な材料ではない。
それは予選タイムでも証明され、確かにコースレコード大幅更新となったが、ポールは更にコンマ7秒も早い。

12JAFGP-869.jpg 紫電が世に出る前から携わった3人。左:渡邊エンジニア。中:デザイナー由良拓也氏。右:松下チーフメカ。 12JAFGP-873.jpg ラストイヤーを共に戦ったスタッフと勢揃いしたEVAレースクイーン。

“勝てる”要素があるとすれば、引退するEVA紫電に有終の美を飾らせてやりたいというドライバー、スタッフ、そしてファンの執念かもしれない。
そんな多くの期待を一心に集めたEVA紫電と加藤選手による、本当のラストラン、ラストレースが幕を開ける。
午後2時15分からのフォーメーションを終え、4列目左、7番グリッドにつく加藤選手。
レッドシグナル消灯!!レーススタート
スタートは早くないが、右前にいた66号車アストンマーチンが更に遅く、その前に出て1コーナーへ・・・。
ところがスタートダッシュを決めた5番グリッドの3号車(GT-R)が88号車(ランボールギーニ)にぶつかり、トップ集団は大混乱。
直後にいた911号車(ポルシェ)は急減速、とっさに避けた加藤選手だったが、間に合わず911号車の左後に追突、右前を破損するも、走行に支障はない。
911号車も左リヤフェンダーを破損インナーフェンダーが飛び出す。
この混乱により上位グリッドマシンは大きく乱れ、トップこそ33号車(ポルシェ)と変わらないが、2番手に911号車、3番手はスタートで出遅れた66号車、そして2号車加藤選手が4番手と続く。
3周目に入ると911号車がオレンジボール(マシンに破損等トラブルがあるので修復の指示)によりピットイン、加藤選手は3番手に上がる。
ポールスタートにより1コーナーの混乱を無傷で抜けた33号車は、何とか逃げ切りたいところだろうが、意に反しペースが落ちてきた。
8周目には66号車にトップを明け渡し、翌9周目には最終コーナーで2号車にもパスされ3位へと後退・・・かと思いきや、パワーを活かしストレートで再び2号車加藤選手を抜き去る。
一進一退の攻防が繰り返されるのか思ったが、得意の100Rでアウト側から33号車を抜き去り、再び2位へと上がり、66号車を追撃。
41秒台で飛ばす、66号車と2号車。
それに対し、43~44秒台へとガックリとペースの落ちた33号車は4位グループにも飲み込まれそうだ。
その為33号車がふたをする形となり、トップ2台と、6台が接戦となった3位グループとの差は広がり、9周目には2秒差だった2位と3位のギャップは、10周目には6秒へと大きく開き、レースは完全に66号車と2号車のマッチレースとなった。
両車ともペースは変わらず41秒台前半をキープ。

12JAFGP-894.jpg 日曜日は各種セレモニー。 12JAFGP-467.jpg 急遽企画された今期限りで引退マシンのセレモニー。 12JAFGP-478.jpg GTA坂東社長から花束を受け取る高橋選手。

既に大きく差を広げた3位以下に脅かされる事は無いどころか、僅かずつリードを広げている。
通常接戦になると、お互いにけん制し合い、ペースが落ち、後方集団に差を詰められる事があるものだが、今日のこの2台は互いに引っ張り合いペースが落ちない。
お互いの差はずっと1秒前後、15~16周目にはコンマ6秒まで肉薄するも、オーバーテイクには至らない。
66号車の吉本大樹選手は、09年、急遽レース活動を休止した高橋選手に代わり、2戦以降シーズン終了まで加藤選手とペアを組み、またそれまでも鈴鹿Pokka1000kmでは助っ人ドライバーとしてこの紫電で戦っており、正にこの紫電の”第3ドライバー”である。
その彼等66号車のチームも、先ごろこのレースをもってチーム解散が発表された。
2号車EVA紫電もこのレースで引退。
お互い、何かしらの哀愁を抱えたラストレースなのである。
結局このクリーンバトルは最終ラップまで続き、終止紫電の露払いの如く前を行った66号車がトップでチェッカー。
その1.2秒後、EVA紫電は2位チェッカーを受ける。
コントロールラインから大きく1コーナー側となったピット、そしてその前のサインウォールにマシンを振って通過する加藤選手とEVA紫電。
加藤選手が無線で絶叫した「紫電ありがとう!!」は涙声となってクルーの心に届いた。

12JAFGP-913.jpg 日曜第2レース。ラストレースはスタート直後、前方で波乱が・・・。 12JAFGP-920.jpg うまくすり抜けジャンプアップ。序盤は4位。 12JAFGP-926.jpg 中盤に入ると66号車とのマッチレースに・・・。

■第2レース決勝後のコメント
■渡邊エンジニア「運も実力の内って言いますけど、それがネガティブな方向に働くことが多かった2年だったんですけど、(今日は)神がかりのように前の方が、トラブル、クラッシュ、接触アクシデントでいなくなったりと、加藤さんがまさに自分のペースで走れる状況が・・ことごとくやってきて・・・始めは、わりと混戦だったんですが、後半ヨッスィー(66号車)とのマッチレースになってきて・・・当初・・・パワーが少ないんで、富士っていう場所は得意じゃないんで・・・特にピットインが無いスプリントレースの場合・・・。スピードで勝負するってのは、今でも厳しいと思ってるんですが・・・スピードがもっともすぐれるポルシャ2台が序盤トラブルと接触で消えてくれて・・・俄然、風が吹いてきたなって感じです。ま~タイヤ・・走り始め温まりがよくなくって、ドライバーもチョッと慌ててたんですが、ふたを開けてみれば最後までキッチリ同じラップで走れるだけの、アベレージの高いパフォーマンスで・・・その辺の選択もよかった感じです。あと、ま~7年目でポンコツって言われ・・・ポンコツなんですけど・・その紫電の戦闘力が一応7年たった今でもまだ、うまくレースを運べば・・・決して“老兵”じゃないよ!!ってのを加藤さんが証明してくれたのですごく良かったのかなって思います。よくでき過ぎたにかな?って思います。あと感じるのは、初年度(06年)シリーズ2位で終わって、翌年も(シリーズ)2位で、そして今日も(最後が)2位と・・・2位で始まり2位で終わるゼッケン2番っていう・・何か巡り会わせがあった様な気がしてならないな~と感じます。本当にありがとうございました。」
■加藤選手「スタートもうまくいって、(前の)混乱に乗じて前に出たんですけど・・・ちょっと・・優勝はできなかったんですが、紫電のラストランを表彰台で終える事ができ・・今日ばかりは悔しさよりうれしさの方が大きいです。いままで紫電を応援してくださった方本当にありがとうございました。」

12JAFGP-929.jpg つかず離れずのランデブー走行でワンツーを形成。 12JAFGP-555.jpg クリーンバトルも残り3周。差は変わらず。 12JAFGP-933.jpg 戻った加藤、吉本両ドライバー。
12JAFGP-937.jpg 紫電の第3ドライバーともいえる吉本選手と握手。 IMG_0698.JPG 紫電7年の生涯。ラストレースに最高の花道。 12JAFGP-567.jpg ゼッケン2・・・最後も2位・・・。