Super GT 2006 Series 第3戦 -富士スピードウェイ-
GTレースレポート
2006年05月05日
今年のシリーズ全9戦の内、鈴鹿、富士共2戦。両サーキットで速い、強い、“マシン・チーム”である事は… |
サーキット 静岡県 富士スピードウェイ
マシン名 プリヴェチューリッヒ・アップル・紫電
ドライバー 高橋 一穂・加藤 寛規
5月2日(火)フリー走行
雨 路面:ウェット
今年のシリーズ全9戦の内、鈴鹿、富士共2戦。両サーキットで速い、強い、“マシン・チーム”である事はシリーズを戦うに重要である。
しかし3月末にここ富士で行われた合同テストでは参加18台中10位!しかもトップから遅れる事1秒6。ロングストレートでのトップスピードが不足。タイムに大きく響いている。
あれから1ヶ月。トップスピードも勿論だが、その遅れを凌駕する進化を各所に加え、ここ富士に挑んだ。
しかしそれらは、実走を行い、セッティングを完璧にしてこそ、発揮できる事だが、今日のフリー走行は生憎の雨。おまけに超~濃霧が加わり、セッティングどころではない。
ところが午前のセッションでは濃霧で開始が遅れ、しかも直後に豪雨で赤旗、45分の中断。再開後も終盤赤旗、時間を残し終了と大荒れの中、加藤選手のベスト1′52″198はなんと2番手タイム!しかも雨に強いと言われる、ダンロップ、ミシュラン勢5台を3~7番手におさえ、ヨコハマ勢でダントツである。ところがもっと驚きは、今年から参入した韓国製タイヤ「ハンコック」が1′51″093と、なんと更に1秒以上早く、トップタイムであった事である。
この「ハンコック」を履いたエンドレスポルシェ、14号車は今シーズンタイム的にも、リザルトも中位あたりとまだ目立たないが、ここらに来て一気にジャンプアップしてくるのか?2004年に経験した韓国製クムホタイヤいまだ苦戦中。このハンコック、脅威の存在となるか?
ここ富士を攻略すべく、少しでも走行時間が欲しい紫電。しかし午後はよりひどい濃霧でずっとコースはクローズ。サポートレースのマーチ、ビッツ、GC21は全く走れない。
各チーム監督と競技長が協議の結果、霧が晴れても、全く走れていない、サポートレースのフリー走行を優先し、SUPER GTは午後4時を目処に、2回目の走行を行うか?どうかを決定する事となった。
もう直ぐ4時になろうかという頃、霧もはれ、やっとマーチのフリー走行が始まる。こりゃ午後の走行は無いな~。じゃミッションのオーバーホール(レシオ交換の為)でも始めようか・・。なんて思い始めた4時過ぎ。「16時15分よりGTクラスフリー走行を開始します」とアナウンス。「エッそうなの!」と慌しく準備を始める。ウェット路面も午前と変わりは無い。
明日からはドライコンディションはほぼ確実な為、この走行をキャンセルしたチームもあるなど、多くのチームが慣熟走行と言った意味合いが強く、殆どタイムアップはなかった。
5月3日(水) 予選
晴れ 路面:ドライ
昨日の濃霧が嘘の様にはれ、気温15℃程とやや肌寒い五月晴れ。霊峰富士の眺めも素晴らしい、今日の予選日。ドライコンディションの走行が全く無かった為に、慣熟走行として10分間の特別走行が設けられ、各マシン続々とコースインしていく。その走行でもクラス2番手!ドライもウェットも好調。こりゃ予選もスーパーラップ(以下SL)も一気に“行く”しかないか。
予選開始。加藤選手は早くも2周目にアタック開始。タイムはアッサリと1′43″079とトップタイム!!
その後も43秒台で2周するがタイムUPはならず高橋選手に交代。しかし300占有の残り時間は少なく計測2周しかできず1′45″547。スロースターターの高橋選手、44秒台は確実のはずだったのに・・・。その後は500占有を経て混走を走るが、タイムアップが望めるものではなかった。
結局このタイムでSLは初めて“トリ”を努める事になった。
しかも午後予選2回目。オイルを撒いてしまったマシンがあり、赤旗中断。オイル処理が行われるが、SLは後になればなるほど良いコンディションとなるだろう。
多くのメディアがピットの集まる中、アタッカー加藤選手によるSLが開始された。今回のアタックBGMは「恋のスーパーパラシューター」荒井由実ファンならだれでも知っている曲だが、昨年から続いているユーミンシリーズ(あくまで荒井由実)では初めてのアップテンポの曲である。♪赤いレザ~~のジャンプ~スーツは~、わたしの~燃え~るハートのしる~し・・♪
大きなリードを作れず、前半の高速セクションを抜け、後半のテクニカルセクションへ・・・。
モニターで見ていると結構リヤが流れ、かなりロスをしている(かの様に見える・・)がフィニッシュラインを通過1′42″889!100分の4秒差でトップ!加藤選手はGT3度目、紫電にとって3戦目にして、チームにとっては2002年のMINE以来2回目のポールポジションである。
しかし3月末の合同テストではトップ27号車の41秒台を始め、多くのマシンが42秒台をマークしていた事から考えると・・・色んな条件が変わったのであろうが、決して紫電が速いとは思えない。
5月4日(木) 決勝
晴れ 路面:ドライ
今年から鈴鹿1000kmがシリーズに組み込まれた為 今回の500kmはシリーズ戦2番目の走行距離となった。実際のレースは500にラップされる為470km前後が予測される。通常の1回の燃料補給ではエコランで、完走ギリギリ。1回給油の作戦をとるチームもあろうが、我々は全力走行で2回給油作戦とする。
決勝日の満タンフリー走行は軽く流し6番手。ここまでは金曜日の悪天候以外トラブルもアクシデントも無くマシンも順調に仕上がっている。
各メディアは来るわ、加藤選手のデモカードライブは有るわの、賑やかなピットウォークも終わり、決勝レースが始まる。
レース前のウォーミングアップが始まり、高橋選手がコースイン。1周してピットイン。“決勝レース用タイヤに換え”ガソリンを“なみなみ”一杯入れてグリッドへ・・・。順調である。
グリッドでは、ピットウォーク並みの大賑わい。やっぱポールは良いね・・・。
初のポールスタートを切る事(初ポールの時は渡辺選手がスタート)となって、プレッシャーイッパイの高橋選手に、激励の別れを告げクルーがグリッドから去りフォーメーションが始まる。
オープニングラップ、そんなプレッシャーを跳ね除け、うまいスタートで、1コーナーをトップで抜ける。その時、後方では色々混乱があったが高橋選手の責任では無い。
後からは11号車、田中哲也選手と110号車、菅選手が突っついてくるが、知らない仲でもないからか?強引さが無く、1周目をトップで帰って来る事ができた。ところが2周目に入ったストレートエンド、110号車ボクスターがトップスピードを活かして一気に高橋選手のインを刺す!が減速が追いつかずコースアウト。目の前を横横切られる様な形で、行く手を阻まれた高橋選手もコースアウト・・・!が、なんとかコースに踏みとどまり、アウト一杯のラインで1コーナーを回る。このアクシデントで4位にドロップ!
そんな高橋選手が奮戦の真っ最中、ピットはえらい事になっていた。オフィシャルからタイヤの規定違反により、ドライビングスルーペナルティを告げられたのだ。
スタート前のウォーミングアップ走行で、マーキングの無いタイヤで走行したと言う事である。それは確かだが・・・
ここでタイヤついて・・SUPER GTでは予選日の朝、3セットのタイヤ(仮にNo1・2・3とすると)にマーキングを行い、その中から抽選で1セット(仮にNo1とする)を決勝スタートタイヤとして、決勝日朝のフリー走行終了まで保管される。という事は、ここまでの2回の予選+SLそして決勝日の朝のフリー走行までは残りの2セット(No2・3)のみしか使えない。
この決勝用タイヤの装着タイミングが昨年までは決勝レース直前のウォームアップ走行からであったが、今年からグリッド上で作業禁止となる5分前までに装着すればよい事になった。
決勝レース直前のウォームアップ走行は“決勝用タイヤでなくても良い”という事を“マークキング無しタイヤでも良い”と勘違いしてしまったのである。この今年からのルール変更は決勝レースのウォームアップ走行はNo1でなくてもNo2・3でも良いという事なのであり、あくまでマーキングタイヤの範囲で自由と言う事である。
ついでに・・・昨年までは決勝用タイヤを抽選する場合、例として、右前はNo1から、右後はNo2から、左前もNo2から、左後はNo3からと、各セットからバラバラに選び出していた。
しかし今年はこうした“バラバラ抽選”ではなく、組み付けられたNo1・2・3のセットのいずれかが保管される。という事は一か八か、1セットハード、2セットはソフトってのも面白いかも?ハードが“当選”すれば予選はソフトとなり一発を“狙う”事ができる。しかし当然決勝用にソフトタイヤが“当選”となれば、気温によっては早目に交換を余儀なくされ、レース運びの幅が狭まる。決勝レースが絶対に雨と予測されれば、全部ソフトにする等、こうした駆引きもアリ。(雨でレイン宣言が出されればタイヤは自由になる)
ドライビングスルーペナルティはフラッグタワーからもサインが出されている。とにかく高橋選手に伝えなくては!
「高橋さ~ん、スルーペナルティーです~。ピットへ入ってくださ~い。」
に対し、
「あんなんボクスター(110号車)が突っ込んで来たんだて~!俺は悪ないて~!(名古屋弁)」
って、どうやら1コーナーのアクシンデントに対する裁定だと思っている。勿論タイヤの規定違反などドライバーが知る由も無いが、タイヤの事を無線で説明するのも厄介なので、
「それとは違います~。とにかく入ってください。モタモタしてると失格になっちゃいます~。」
とエンジニアのシンちゃんが叫ぶ。
6周目、渋々(って、顔は見えないけど)ピットに入ってくる高橋選手。ピット前では念の為、止まらずそのまま行く様、手で合図をする。
ピットロードエンドで猛然とスパートする高橋選手。ポールポジションから一気に最下位(25位)である。“追い上げ”甲斐があるレースになった。
11周目18位、13周目17位、27周目16位と着実に順位を上げ、タイムも46~47秒台で安定している。
ここらから1回目のピットインが始まり(見かけの)順位は更に上がる。
32周目15位、34周目13位そして36周が終了して高橋選手もピットに帰ってきた。
加藤選手に交代。燃料補給とタイヤ交換を終え無事に送り出す。
リセットされた順位は17位。上位はまだピットに入っていないが、多くはツーストップだろうが、ワンストップ作戦をとっている少数派チームもある。
順調に走れば300クラスは102周前後(500は110周)がゴールとなるが、満タンでも残り60周以上を走りきる事はできない。タイヤライフ(ラップタイム)と相談しつつ2回目のピットインを決めなくてはならない。
45周目15位、62周目14位、そろそろ2回目のピットへ向かうマシンもある中、64周目10位。
加藤選手「(前の)55(号車)ストレート早くて抜けねーよ。」と、紫電と同じく、今年デビュー、第2戦の岡山では唯1台予選落ちしたフォードGTも順調に仕上がっているようだ。
それも何とかかわし、68周目9位、70周目8位、71周目6位・・。
そして73周目、上位の常連19号車がホイール脱落によりピットインを余儀なくされ、4位へ!
上位マシンの2度目のピットインが続く中、我々もそろそろ給油が必要だが・・・2位に上がった75周目、
シンちゃんより
「タイヤはどうでしょうか~?45秒で走り続けられるかどうかが目安です~。」
それに応える加藤選手
「ここまで来たら行くしかないな~。」
ここまでも45~46秒台を刻み続け、残り26~7周まだ行けそう?との事。
だったら作戦は決まった!
77周目前を行く110号車がピットイン、2回目の給油とタイヤ交換で出て行くが10位に下がる。
暫定トップに上がり85周目ピットイン。
一応用意したタイヤは交換せず、給油のみのピット作業でにより6位で復帰させることに成功!
その後は、なんと44秒台!で猛追。87周目には5位へ。
4位を行く、13号車について
加藤選手「Z(13号車)何秒前(にいるのか)!何秒前!」
シンちゃん「11秒前です。」
加藤選手「それは遠いな~。」
シンちゃん「行けるところまで頑張ってください。」
何てやり取りの中、91周目には44″479のベストタイムをマーク。とても50周以上走ったタイヤとは思えないパフォーマンスである。そんな怒涛の走りの気迫が通じたのか?13号車、92周目、何かトラブルが出てピットイン。棚からボタモチが落ちてきて4位へ。
表彰台まで残るは1台。前を行くのは例のハンコックタイヤを履いたポルシェ14号車である。500も抜きあぐむトップスピードを活かしての大躍進である。タイム差は20秒近くあるが、今だ44秒台で走る加藤選手に対し14号車は47秒台。韓国製タイヤに疲れが出ているのか・・。残りは多分10周。届かないタイム差では無い。
ところが、ヒタヒタと迫る2号車に気がついた14号車、45~46秒にペースアップと、まだ余力はあったようだ。毎周の追い上げも1秒少々と鈍るが、まだ何が起こるかわからない。追撃の手を緩めることなく、44秒台と“ムチ”を入れる加藤選手。しかしその甲斐も虚しく、14号車に遅れること3秒。102周で4位のチェッカーを受ける。
予選1位 : 決勝 4位
獲得ポイント チームポイント8点 累計13点 ランキング 9位
ドライバーポイント8点+4点(予選1位) 累計18点 ランキング 7位
今回のレースで感じた事は、ほんとに「レースは何が起こるか判らない。」って事。ポールポジションスタート。高橋選手もここ富士では結構ノレていた。スタートから交代までトップを堅守する事は難しい(無理!と書くには失礼。って書いたも同然か・・。)が、110号車とのアクシデントが無ければ・・・・
そしてペナルティが無かったら・・。これについては全くのボーンヘッド。ルール上では確かに前述の通り。しかし同じ事を前のレースでもやったと思うが、その時は何も言われなかった。無論オフィシャルも神様では無いので、たまたま見落とされていたのかもしれない。ま~ルールってのは、前は良かったから今回同じ事をしても(今ルールに照らして)違反は違反である。 前回、運が良かっただけの事である。この2点以外全く順調なレース。ドライバーもピット作業もミス無しである。マシン、紫電も全くもって良くがんばってくれた。
ただこうした「タラ」「レバ」はもし無かったらだが、「起こったから」という事もある。110号車がコースアウトしたから・・・。19号車のホイールが外れたから・・・また11号車がシフト系にトラブルが発生したから・・・等々、上位陣の「シタ」「レタ」レース(私が勝手に考えた)があったから、そして500kmの長丁場のおかげ等、色々な足し算引き算でこの4位であり、これがレースなのである。これらがいつどんな形で現れるかで、観客はレースというドラマを楽しむのである。
しかし今シーズン、なかなか平穏なレースは訪れない。
「Team BOMEX Dream28」 666号車NSX
このNSXにとってこの富士はゲンの良さ、悪さが混在したコースだと思う。フルシーズン参戦初年の2002年、第2戦として行われた富士500km(旧コース)でいきなりのセカンドポジション。しかしレースは2位走行中、予定のピットインで、スタータートラブルが発生。結局良い夢を見させてもらった程度で終わっている。
翌2003年も4番手と好ポジションからスタートしたが、ミッショントラブルでリタイヤしている。その年以後このNSXはここ富士を走っていない。2年半振りである。
と言っても今年3月末の合同テストは参加しておりそれなりにデーターはある。
しかしこの時、高崎 保浩選手がマークした1‘44″553がターゲットタイムだったが、今回、周防、山下選手は上回る事ができず、1′46″744。まだまだGTマシンでの走り込みが不足している両選手にとって、今回の500kmの長丁場は、以降のレースへの大きな糧となるであろう・・・。
ところが山下選手からスタートしたNSXは序盤周防選手に交代した直後エンジン不調に見舞われ、再度ピットイン。
30分近くをピット内で修理に費やし、辛くも完走扱い21位とはなったが83周をこなすに留まった。